彼女達のモンスターファーム①
※このお話は今年、20年の時を経て最新ゲーム機へ移植される名作ゲーム「モンスターファーム」が好きすぎて、何とかしてゲームの魅力を伝えたい自分が、自作小説のヒロインに無理やりプレイさせようとしたものです。
物語は、ヒロイン達が通う高校で、なぜか授業の一環でプレイステーションゲーム「モンスターファーム」をプレイするという謎設定で展開されています。彼女達はゲームを完全クリアするまで家に帰れません。
モンスターファーム未プレイの方もいると思いますので、ゲームに関する解説を「※」で要所要所に入れていきます。
登場キャラの元小説⇒https://novel18.syosetu.com/n4084ec/
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※アイリとミクは、選択科目の情報「ゲームクリエイト」の授業内で、まず市販のゲームに触れるという名目で半強制的にモンスターファームをプレイしはじめます。彼女達はパソコン室におり、同じ授業を受けている他の生徒達もそれぞれペアを組んで各々違うゲームをプレイしています。
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ゲームのオープニングが開始された。
この世界観の中心となっているのは「円盤石」と呼ばれる古代遺産。これには伝説に残るモンスターが封印されており、「モンスター神殿」と言う施設から内部のモンスターを再生させることができる。
この世界ではモンスターと人々は暮らしを共にしており、その中である競技が人気を博していた。
それこそがモンスター同士を戦わせる「モンスターバトル」であり、このゲームの根本を成す要素である。
「圓さん、プレイヤーの名前は……」
「……川瀬さんの名前でいいんじゃない?」
コントローラーを握っているのは彼女、川瀬愛織さんだ。
彼女は慣れない手つきでぎこちなくコントローラーを操作し、主人公の名前が「アイリ」と入力された。
ゲームの主人公となる彼女は、「モンスターバトル」で戦わせるモンスターを育てるブリーダーということになっている。物語は、彼女が新人ブリーダーとして認められ、教会へブリーダー登録を行なう、というところから始まる。
『ブリーダー審査合格おめでとうございます。頑張っていいモンスターを育ててくださいよ。で、あなた方にはこちらから指定の調教助手を派遣させていただきますね』
「……?」
協会の役員らしき男性が話している。
調教助手というのは、おそらく作中の固有名詞だろう。テキストを次に送ると、男性はすぐに説明をしてくれた。どうやら調教助手というのは、ブリーダーの手伝いをするために教会が養成した人員のことらしい。
要するに、この調教助手がゲームのサポートを常時してくれるというわけだ。
『こちらがあなたに派遣される調教助手のホリィ君です』
『こんにちは、わたし、ホリィっていいます。よろしく』
髪を後ろで一纏めにした、ポニーテールの可愛らしい女の子が出てきた。彼女も助手になりたての新人らしい。
『では街でモンスターを手に入れて、ファームへお帰りください』
一通り紹介を済ませると、男性はそう言って去り、その場には助手と主人公だけになった。一通り会話し、彼女と主人公は揃って街へ行くことになった。(※この後、ホリィとテスカという師匠の会話が少しあるのですが、全て話していると長くなるため、ここでは省略しています)
プロローグが終わり、プレイヤーの操作へと切り替わった。
ゲームはまず、街でモンスターを手に入れるところから始まるらしい。
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「えっと……」
急に操作を委ねられ、アイリがミクの方へちらっと目線を送った。
ここはかなり重要な部分だろう。どのようなモンスターが存在するかは不明だが、この選択はゲームの進行に大いに響いてくるはず。
本作の最大の特徴は、育てるモンスターを音楽CD(またはPlayStationなどのゲームディスク、パソコン用のCD-ROMなど)から誕生させることができるという点らしい。
ゲームの中では、この音楽CDが「円盤石」を意味しており、ゲーム本体にCDを読み込ませることで、そのCD(円盤石)内のモンスターを再生するという話になるわけだ。
せっかくなので、このモンスター再生の仕様を利用してみたいところだが、手元にCDがない……
(※今年発売の移植版は、ゲームCDを読み込ませるタイプのハードでないため、初代モンスターファームとは違う仕様が導入されています。原作ファンとしては、家にあるCDにはどんなモンスターが潜んでいるのだろうという再生時のワクワク感が堪らないので、この仕様変更は少し寂しいです。同じモンスターであっても、再生するCDで初期能力値も潜在能力も違うという部分がまた素晴らしい要素だと思います。ちなみに彼女達がプレイしているのは初代ですので、CD再生が可能な設定です)
「あ、ここにあるよ!」
「それ、レンズクリーナーだけど……」
レンズクリーナーとは、裏面に導電性繊維がくっついたCDであり、読み込ませることでCDドライブのレンズに付着した汚れを除去するためのものである。
それで、モンスターが生み出せるのだろうか……?
『お待たせしました。それでは誕生させますぞ』
できるらしい。
「わあ~、なんか、すごいっ」
画面が切り替わり、モンスターを石版から生み出す映像が流れている。
祭壇の中央には円盤石らしきものが浮いており、そこから放たれた光が虹色にきらきらと煌めいている。石に封印されしモンスターが再生されようとしているのだ。
画面中央から、何か黄色いものが出現し、大きくなっていく。何だろう、これ……
『ふわああああ』
「「……」」
モンスターらしき一つ目の球体が、大口を開けてあくびをしていた。そいつは大きな目を気だるげに細め、口をもごもごと動かしている。
【スエゾー | MAIN:スエゾー SUB:スエゾー】
すぐに画面下部にテロップが表示された。おそらく、このモンスターの種族名だろう。(※メイン、サブというのは、モンスター合体の要素が絡んでくる部分であり、異なる種族のモンスターを合体させることで様々なモンスターを作成することができます。メインとベースとなるモンスターで、サブが掛け合わせているモンスターです。基本的にモンスターは、合体させたものの方が高い補正値を持つ傾向にあるのですが……)
『ヘンテコなモンスターだね』
調教助手のホリィさんが、彼女達の感想を代弁してくれていた。
メッセージを送ると、モンスターの名前を決める画面になった。
「名前は、どうしよっか……?」
「……待って、このモンスターでいくつもりなの?」
どうやら彼女は、このモンスターでいくつもりらしい。
少し悩んでいた彼女は、何を血迷ったのか、そこに「みく」と打ち込んだ。
「っ……、あのさぁ……」
「っ!? いやあのっ、パートナー、だし……」
ミクの若干ドスの効いた声に、アイリ(と周囲の生徒達)が戦慄し、文字が消されていく。悪気が無いのはわかっているのだが、ちょっと勘弁してほしい。
命名を待つそのモンスターは、くねくねと全身を左右にくねらせ、大きな口からべろりと舌を覗かせている。
結局モンスターの名前は「ルドルフ」に決定し、テキストメニューがようやく画面から消えた。
「じゃあ、ファームに……」
「ちょ、ちょっと待っ、行く前にモンスターのステータスを確認しない?」
まだ育てるモンスターが決定したわけではない。この尻尾を付いた単眼球体がどれほどのポテンシャルを秘めているかはわからないが、正直別のモンスターにしたいと思っている。
「賢さが高いみたい。あと命中」
おおよそ知性など感じられない容姿をしているが、これで賢さに特化したモンスターのようだ。画面をモンスターグラフィックの確認に切り替えたアイリが、ルドルフのフォルムを色々なアングルから覗いている。
「あ、これ」
「……?」
アイリがモンスターを下から見上げるようなアングルで静止させていた。本体である丸い部分の下アゴがアップになり、その背中側から湾曲した尻尾がくるっと伸びている。
「何だか、もやしみたいな……」
「――っ!?」
不覚にも吹いてしまい、またもや周囲の生徒達がびくっと肩を揺らした。
(※実際スエゾーは、体の黄色具合や、丸っこく伸びた尻尾など、どことなくもやしの芽っぽいです)
咳払いで何とかそれを誤魔化すミクの目線に促され、アイリは慌てて画面を切り替えていく。
画面がスライドしていくと、今度はモンスターの技一覧が表示された。現時点でこのモンスターが覚えている技は、「しっぽアタック」「ツバはき」「なめる」の三種類っ……!
「っ……」
「み、みくちゃん……?」
仮にも、互いの強さを競いあう試合を行なうというのに、このふざけた技の羅列は何なのか?
いやそもそも、ふざけているという以前にこれは反則行為ではないだろうか? 勝負の場において唾を吐く? 舐める?
段々と画面中央でクネクネしているモンスターの動きにも腹が立っ――
――ポーン(決定音)
『がんばってルドルフを育てようね(*^-^*)』
「ああ゛っ!? ちょっ、川瀬さんっ!!」
「うわあっ!?」
ミクの非難めいた声が教室内に響き、彼女を恐れている生徒達が今日一番のリアクションで椅子から飛び上がった。
ミクの先程の無言の圧力から逃げるようにゲームは進行され、街の画面はすぐさまファームへと移行した。
ここから本格的にモンスター育成が始まるらしい。
これは新人ブリーダーのアイリとモンスターのルドルフ(と傍観者1名)がモンスターバトルの最高峰、四大大会を制覇するまでの物語である。(仮)
続く……?